小野道風と蛙
柳に飛びつく蛙
木綿藍染絞り男物下(柳に蛙)の解説・特徴
製作年月 明治初期
生産地 愛知県鳴海市 有松絞
つまみ縫い絞り、笠巻絞り、桶だし等変化に富む絞り技法を駆使し、絵羽の合口もしっかりしている高水準の作品。なによりも、140~150年もたっているのに、藍の色は鮮やかで、藍染をした最初のころにでるスクモや木灰からでるアクもなく、相当丁寧に後処理をしてあり、保存状態もよく素晴らしい作品です。
図案
【花札11月】雨札(柳)でご存じの、公家人が傘を差しその横に蛙がある。小野道風の故事がモティーフの意匠で、作品としては背筋を中心として小野道風の故事にならい柳に飛びつく蛙をユーモラス且つ大胆に表現したしたものです。
「小野道風」は日本書道・和様書の礎(いしずえ)を築いた「三蹟(さんせき)」のうちの一人で、能書家として偉大な功績を残したことから「書道の神」と呼ばれています。
故事・逸話『小野道風と蛙』では
道風が書の悩みとして、書の道を志したのに、いつまでたっても栄達できずきっと私には書家として才能がないのだと、歩きながら悩んでいた時、ふと見ると蛙が柳の葉につかまろうと必死に飛び跳ねているのを見かけます。
そんな離れた柳に飛び移れるわけがない、出来ないだろうと思えることを、何度も挑戦するその姿に、道風は苛立ちを感じます。
すると突然風が吹きつけ、柳が大きくしなったことで、蛙は飛び移ることに見事成功します。
それを見て、道風はハッとして、この蛙は、みずからの目的のために努力することを惜しまなかった。決して諦めない不屈の精神を持っていたのだ。それに比べて自分はどうだ。おのれを研磨し努力することもせず、ただ才能がないからということを言い訳にして、目の前の道から逃げていたのではないか。
それからというもの、道風は血のにじむような努力をし、「書道の神」と皆にたたえられるくらいに書の道を極めることになったのです。
私が考えるに
この着物下を誂えた人も、着物下ということで表には見せないけれど、
故事にならい、人には見えない努力を惜しまないという誓いとして、
誂えたのではないかと考えられます。
いつの世も美しいものや、思いがあるものは後世まで残る。
素晴らしい作品なのでご覧ください。